閉じ込める男。
インフルエンザでダウンしておりました、間があいてしまいましたが今日はタイトルのだめんずの話。
ヤマトとの関係が終わりハラダとも終わった私は好きでもなんでもないリョウタと言う男に会ったその日に付き合ってくれと言われて、どうでも良くてOKした。
文字通りリョウタは『閉じ込める男』でありその本性を知らない私はこの後、約1ヶ月半ほど人生で初めて監禁される事になる。
私がだめんずに引っかかる要因として最も大きい理由が“好きでもないのに付き合う自分も悪いからだ”と言う事に気付くのは病院で治療を始める頃。
この頃は自分だって皆みたいに愛されたいとか居場所が欲しいとか、ぬくもりが欲しいと人並みに女の幸せを願っていた。
私は当時ハラダとはポケベルで連絡を取っていて連絡が来ない間にPHSを持った、ダメ元でかけたハラダの自宅の留守電にPHSの番号を残した。
これを聞いたハラダがリョウタと付き合った翌日に電話をくれたのだが、これが良くなかった。
その電話がかかってきた時、私はリョウタの自宅にいて隣で通話の内容を聞かれていた…だからこそ「連絡待ってたんだよ!」と言う訳にはいかなかった。
1人だったら勿論リョウタとはソッコーさようならしていたと思う、まぁそれはそれでズルイと思うからきっと正直に話しただろうけど。
通話を終えると突然PHSを奪われて壁際に追いやられ事細かに尋問された、その時の表情はドラマなんかで見るサイコパスそのものだった。
私は一瞬で“しまった、やってしまった”と悟った。
リョウタは異常なまでに執念深く嫉妬深く束縛も尋常じゃない、ホストに向いてないんじゃないかと思うが逆にそう言うのが好きな女にはたまらないのか。
一緒に暮らそうみたいな話が付き合って2日で出ていたので一度荷物を取りに家に帰りたいと言うと「逃げる気だろう!」と殴られて手錠をされた。
乱暴に抱かれてそれを拒むと殴ったり首を絞めながらプレイする、奪われたPHSは押し入れにしまわれていてバッテリーは抜かれてしまった。
リョウタは夜19時頃に出勤するのだが、それまではずっと部屋にいて私に犬用の首輪とリードをつけたり、手錠か足枷をさせたりして漫画を読んだりゲームをしてくつろいでいた。
リョウタが外出や出勤の際には監禁事件よろしく、外から南京錠がふたつも掛けられてとても逃げる事は許されない。
では排泄はどうするのかと言うと大きい方の場合はリョウタがいる時か、不在時に催したらベランダにあるバケツ。これがまた憎たらしくてやっと手が届くギリギリの位置に置かれていてバケツの出し入れ以外は絶対に出来ないようになっていた。
小はコンビニにある500mlのリプトンのレモンティーの空の紙パックか牛乳パックにさせられた、帰宅すると風呂場で私にそれをぶちまけて来る。
大きい方はすると汚物として殴られるので帰宅まで我慢する。
一日に与えられる食事はゆで卵一個だけで元々痩せてはいたけど逃げる寸前にはガリガリになった、不在時に大便をされたくないと言う理由で食事はそれしか与えられなかった。
おかげで私は今もゆで卵(特に黄身)が食べられない、黄身を見るとリョウタを思い出す…リョウタは生の豚肉や生卵の黄身を塗りたくった牛肉を食べる事が多かった。
その異常な姿はとても恐ろしかった、何日もわざと風呂に入れさせずに汚い私を愉しんだりした。
完全に異常者だった。
そんな生活が1ヶ月半程続いたある時、私はついに逃亡の機会を得る。
リョウタは同伴出勤で家を早めに出た、お気に入りの太客らしくウキウキしながら出て行ったが携帯を忘れて出て行ったのだ。
すぐに気付いて取りに戻る事はわかっていた、私は慌てて携帯のダイヤルを押す。
暗記していたのはカヨコの番号だけだった、知らない番号は出ないかも知れない…お願いだから出てと祈った。
「もしもし?」と聞きなれたカヨコの声。
私は「時間がないの!監禁されて××市にいる、外から何とか見えるのは○○電機と言う看板で恐らく△△辺りだと思う、建物の近くから砂利の音がするから空地か駐車場かも」と言うとカヨコはメモを取って無駄口はきかなかった。
「何階建てかはわからないけど私は2階の角部屋にいる、ベランダの半分がうまい事見えない様に何か板を置いてるの、これが最後のチャンスなの。何とかコウジ先輩に連絡を取って車で探しにきて、酔って帰ってくると思うけど確実に22時なら逃げられるはずだから22時にもし見つけられたらクラクションを鳴らして、5分待って私が出て来なかったら帰って」と言うと通報しようと言われたが私は恐喝の呼び出し状の件があるので通報はしないでと言って切った。
リダイヤルの履歴を消して隅っこで寝たふりをすると戻ってきた音がする。
携帯を取って私の頬にキスをすると南京錠をしっかりかけてリョウタは出て行った。
22時にクラクションが鳴るのを待っている間にしなくてはならない事がある、それは外に出るための準備だ。
残念ながら外に出るには南京錠があって普通に出る事は出来ない、すなわちベランダから以外出る事は出来ない。
この日は首輪とリードを重たいベッドの脚に引っ掛けて手錠をされていた。
距離もギリギリなので何度も首が絞まってはえづき、それでも何とか動かしてリードを脚から抜いた。
何度も逃げようと思ったがもし失敗したら逃げようとした形跡だけが残り酷い目に遭う、とても出来なかった。
手首も首も内出血で凄いことになっていた、皮も剥けた。
ベランダを開けると板で隠されていただけでなくバケツ分以上に開かない様に不要品で埋められていた。
思いっきりガンガンやって窓を開けて身を捩りながら外に出る。
裸足で乗り越えて下を見ると完全に角部屋は死角で外からはこんな異常な光景、想像もつかないだろうと思った。
ここで問題がある、部屋は2階でもエントランスのような部分を計算すると3階近い高さがあった。
手錠は絶対に外せない、どうしようかと思っていると雨どいのパイプが目に付いた。
これをつたって降りる以外に方法がない、と思っていたらクラクションが聞こえる。
来てくれたんだと思って「こっちーー!」と思い切り叫んだ、この際住民が出てきてももう良いやと思った。
だってカヨコ達が探してきてくれた、もうそれだけで充分だった。
私は意を決してパイプを掴む、裸足だから滑らないけど手錠で思っているよりも進まない。
ゆで卵生活で力もない、あとちょっとと言うにはまだまだ距離がありすぎる。
その時カヨコと地元のコウジ先輩と他の仲間が集まってきて「飛べ!」と言った。
どうせ死ぬにしてもあんな部屋で死にたくない、私は手を離した。
ふんわりと、そんな感覚で落ちたのを覚えている。
後からリョウタはコウジ先輩によってボッコボコにされた。
人から聞いた話だとリョウタの母親は子供の頃、ほとんど育児もせずリョウタを置いて蒸発し地域の指導員の方たちからも生肉を食べたり動物を殺したりして残虐な反面、とても可哀相な幼少期を過ごした子として有名だったらしい。
だからと言って許しはしないけど、人の心の闇を見た。
そんな生活だった、きっとリョウタは文字通り外面良く自分の心も閉じ込めてしまえる「閉じ込める男」なのだろう。
これを機に、私は地元を捨てて繁華街へと単身家出する。
そこには悪魔がいた、私の人生で3本の指に入るトラウマとなる男との出会い。
次はそんな悪魔のお話です、今でもたまに苦しむあの男たちの顔は鮮明なのものとぼんやりしたものが入り混じっていて、最後まできちんと思い出すことが出来ないからこそ今でも苦しんでいるのかも知れない。